困っていることには理由があります
発達性ディスレクシアのこと

発達性ディスレクシアを正しく理解していただきたいです!

はじめに

私の言語聴覚士としての原点は、元筑波大学教授の宇野彰先生の教えの中にあります。宇野彰先生といえば、科学的根拠に基づいた研究、その確かな研究に基づいた臨床で有名ですが、そこには、常に、愛があります。私が新人ST(言語聴覚士)として出会った時から、全くぶれず、変わらないその姿勢は、お子さん、親御さんと共に歩んでいる私の「道しるべ」です。

宇野彰先生に教わったことが、『ことばと読み書きすーふ(以下すーふ)』での発達性ディスレクシア臨床の基本となっています。すーふには、発達性ディスレクシアに加え、他の特性を併せ持ったお子さんが多くいらしてくださっているので、宇野先生に教わった方法を基本にしながら、ひとりひとりのお子さんの特性や状況に合わせて、私なりの経験、考え方に基づいた関わりをさせて頂いています。

発達性ディスレクシアを理解するために、必読の1冊!

「うちの子は字が書けないかもと思ったら」宇野彰著 ポプラ社

 

2020年2月28日に出版されたこの本を読んで、不思議な感覚になりました。私が20年位ディスレクシアのお子さんたちとお付き合いしてきて、お子さんたちから教えてもらったこと、長年お付き合いしてきたからこそ気づけたこと、また、このところ感じていること、などと重なることが、実にたくさん書かれていたからです。最初不思議でしたが、何もわからない新人STの私に、1から教えて下さったのが宇野先生なので、不思議ではないかもしれませんね。宇野先生に育てて頂いたことに今更ながら、感謝したい気持ちになりました。同じように感じている部分がたくさんあっても、こんなに、確かな根拠に基づいた知識に裏打ちされた素晴らしい本にすることは私にはできませんので、この様な読み易い本にまとめて下さり、本当にありがたいです。学校の先生には、是非読んで頂きたいですが、こどもたちに関わる全ての人に読んで頂きたい本です。

ホームページ上でこの本を取り上げることは、宇野先生に許可を頂きましたので、この本を引用させて頂きながら、発達性ディスレクシアについてご説明しますね。

発達性ディスレクシアとは?
知能や聴いて理解する力、発話で相手に自分の考えを伝えることには問題がないとしても読み書きの能力だけに困難を示す障害のことを言います。      

読み書きの能力に困難を示す……とはこういった例です。

     通常の読み書きの練習をしても音読や書字の習得が困難。

     音読ができたとしても読むスピードが遅い。

     漢字や仮名の形を思い出すことが難しいため、文字が書けない。またはよく間違える。

     文字を書くことはできるがその文字の形を思い出すまでに時間がかかるため、文章を書くのにひじょうに時間がかかる。

(「うちの子は字が書けないかもと思ったら」宇野彰著 ポプラ社 202014ページより引用)

こうした症状がある発達性読み書き障害の子どもは、知能に問題がありそうな子をのぞいても日本の小学生の約78%に存在します。(Uno et al,2009 同著16ページより引用)

発達性読み書き障害の子どもは40人学級に3人の確率でいます。(同著18ページより引用)

ひらがなの習得から苦労するお子さんもいれば、カタカナでつまずくお子さん、あるいは漢字が難しくなる小3~小4で顕在化するお子さん、英語学習が始まって困難が明らかとなるお子さんなど、症状の現れ方は実に様々です。大人になるまで気づかない方もいらっしゃいます。

発達性ディスレクシアの症状だけのお子さんは、気になる行動面の問題が見当たらないことが多く、知らない方からは「怠けているだけ」「もっとやればできる」と思われがちだと思われます。こういった場合、さらなる努力を強いるのではなく「あれ?もしかして・・・」と疑って頂きたいと思います。

また、「発達性ディスレクシアが、誤って理解されている」と思うことが時々あります。誤解されやすい症状を、宇野先生がわかりやすくまとめて下さっているので、ご紹介します。

発達性ディスレクシアの症状ではないもの
 発達性読み書き障害だと誤解されやすい症状がいくつかあります。

・鏡文字を書く。

・文字が枠からはみ出る。

・字形が崩れている。

・字の大きさがそろわない(文字が小さくなったり大きくなったりする)。

・字が浮いて見える/動いて見える/二重に見える/片目を閉じれば見える。

・文字を大きくすれば読める(発達性読み書き障害では大きくしても読めない)。

・ビジョントレーニング(視覚機能を高めるための眼球運動など)でよくなる(わけではない)。

・色付き透明フィルターを使うと読めない字が読めるようになる(わけではない)。

・フォントタイプを変えると読めるようになる(わけではない)。

・整理整頓が苦手である。

・約束の時間を守れない。

・場の空気が読めない。

・こだわる傾向がある。

・不器用だったり、運動が苦手だったりする。

・不注意である。

(「うちの子は字が書けないかもと思ったら」宇野彰著 ポプラ社 2020年 32、33ページより引用)

 もし、ここにあるものが当てはまっても、それがイコール発達性ディスレクシアではないということではありません。発達性ディスレクシアに加えて、別の特性が併存しているということかもしれません。

「字が歪んで見えないなら発達性ディスレクシアではない」と言われたり、「字を枠に入れる練習をさせ、できるようになったから、発達性ディスレクシアが治った」と学校や支援機関で言われたなど、保護者の方からうかがったりします。

これらの症状は、発達性ディスレクシアの症状ではない と知って頂き、そのお子さんの症状を丁寧に見極め、それぞれの症状に適した対応をお子さんと相談しながら、工夫する必要があると思います。

 

発達性ディスレクシアについて、こどもたちの気持ち

読むことが困難でも、内容を聞いて理解、覚えてしまうことで、読めているふりをする子もいます。ずっと読めるふりをしてきた小3の男の子と、宇野先生が文部科学省の委託研究事業で作成した啓発動画<基礎編>★このページの最後に動画情報掲載してあります★を一緒に見ました。見ながら、その子は「これ、俺だ!」と驚いた表情で言いました。「みんながやればできるって言ったけど、自分では、ちがうってわかってた。そうかディスレクシアっていうのか」そう、その子はしみじみ言い、晴れ晴れとした表情をしました。別のある日、この子が「ぼくがディスレクシアだってわかってから、漢字減らそうか?とか大変ならたくさん書かなくてもいいよって、お母さんや学校の先生が言ってくれるようになった。でも誰も読まなくていいって言ってくれない。読む方がつらいのに」そう教えてくれました。はっとしました。確かに・・・。読むことの苦しさは、なかなか読める人には、想像しにくいかもしれません。小4になった時、担任の先生は、この子の話を聞き、すぐにフリガナ付きのテストを導入してくれました。この子は「テストがずいぶんやり易くなった!」と嬉しそうに教えてくれました。小学校時代は、担任の先生の知識や行動力で、学習のやり易さは大きく左右されます。ただ、フリガナ付きのテストがどんなに助かるものでも、みんなと違うことを望まない子もいます。学校での支援を考える時には、必ず本人の意思を確かめて頂きたいです。困っていると表明しているお子さんにだけではなく、クラス全員に選択肢を用意して下さる先生もおられます。この方法は、周囲の大人に気づかれず、人知れず困っているお子さんも助かりますね。

読むことの苦手さに、本人は気づいていて、周囲の大人が気づいていないこともありますが、本人も気づいていない場合もあります。他の子たちの様にはできないことは気づいていても、できない理由は、「自分がバカだから」「自分がちゃんとやっていないから」「自分の努力がみんなよりも足りないから」と思っているお子さんが本当に多く、胸が痛みます。客観的な評価に基づき、出来ない理由があることをきちんと伝えてあげることが大事だと思います。

発達性ディスレクシアのために、読み書きに何らかの苦手があり、努力しても成果があがらない時、傍らで見守る保護者の方もつらいのだと思いますが、一番つらいのは、間違いなく本人です。親にはつらさを誰よりもわかって欲しいのに、もし、責められ、さらなる努力を強いられたら、絶望的な気持ちになり、自暴自棄になったりするかもしれません。中3でこちらにいらした方が「ずっとできないことを責められてきたから、苦手を認めることは、敗北だと思っていた」と教えてくれました。

宿題を嫌がる、宿題に時間がかかる、本当は宿題があるが、無いという、一緒に勉強しようとするとすぐにトイレに行く、眠い、疲れたと言う、すぐふざける・・・もしこういったことが見られる場合、そのお子さんは、かなり苦しくなっていると想像できます。責めるのではなく、勉強が苦しくなっている現状をまずは、受け入れてあげてください。
発達性ディスレクシアと一言でいっても、症状は実に多様で、1人として同じお子さんはいません。
発達性ディスレクシアのお子さんみんなが、最初から学校の勉強が嫌いなわけではありません。成果の上がらない理不尽な努力を強いられ続けた結果「嫌いにさせられてしまった」お子さんたちがたくさんいます。わかる方法と出会えれば、学びたいと思っている子がほとんどです。この子たちの学ぶ権利が、当たり前に守られますように、どうか正しく発達性ディスレクシアを理解して頂きたいと思います!

 

★たくさんの人に、正しく知ってもらいたい!
「発達性読み書き障害 早わかりガイド」をご紹介します

練馬区社会福祉協議会 練馬ボランティア・地域福祉推進センターが作成した、発達性読み書き障害早わかりガイドを、許可を頂いて、ご紹介させて頂きます。宇野彰先生が監修しておられ、確かな内容です。練馬区内全ての小中学校に配布されたそうです。

たくさんの方に正しく知って頂くことが、作成の目的とされており、どなたでもダウンロード・印刷が可能です。
学校の先生や、お子さんに関わる方に正しく知って頂くために、是非、ご活用下さい!

こちらからダウンロードしてください

★「発達性読み書き障害 早わかりガイド」が動画になりました!​

練馬区社会福祉協議会 練馬ボランティア・地域福祉推進センターが作成した、発達性読み書き障害早わかりガイドが動画になりました。この動画も宇野先生が監修しておられ、確かな内容です。
多くの方に知っていただけるよう、こちらもぜひ、ご活用ください!